麻布大学

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卒業式における学長式辞

令和5年度卒業式における学長告辞

本日、令和5年度、麻布大学獣医学部、生命・環境科学部、大学院獣医学研究科そして大学院環境保健学研究科の学位記授与式を挙行できますことは誠に喜ばしく心からお祝い申し上げます。本日、学位記を授与された皆さん、本当におめでとうございます。昨年の5月8日から新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」になりましたが、皆さんは入学後、学生生活の半分以上をコロナ禍の中で学習環境に制約をうけながら過ごしてきたことと思います。このような不安な日々を乗り越え、無事に今日の日を迎えられたことを、学長として大変嬉しく思います。皆さんには、ご支援くださったご家族をはじめ、多くのお世話になった方々への感謝の気持ちを忘れないで欲しいと思います。ご父母の皆様、ご子息、ご息女のご卒業、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。本日はご父母の皆さまにもご出席いただき、卒業式を挙行できることを大変嬉しく思います。お子様方の在学中は、本学へのご理解とご協力を賜りまして、誠に有り難うございました。教職員を代表して心より御礼を申し上げます。

さて、皆さんはこれからそれぞれの道にお進みになり、新たな環境での生活が始まります。社会では、様々な分野で解決すべき課題が山積しており、皆さんは非常に厳しい環境に身を投じることになります。我が国では少子高齢化による労働力の減少や地球温暖化による異常気象、海外に目を向けるとロシアによるウクライナへの軍事侵攻、イスラエルとパレスチナの対立など、「平和な社会」を根底から揺るがす深刻な事態が毎日のように報道され、激変する社会に不安を感じている方もいるかも知れません。皆さんには、社会の要請をしっかりと受け止め、真正面から挑戦し、社会に必要とされる人物になって欲しいと願っています。人間関係においては、ネガティブな関係を極力減らすと同時に、ポジティブな関係を構築することが重要です。ポジティブな気持ちを忘れずに頑張ってください。

少し前になりますが、社会心理学者である山岸俊男先生の「安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方」という著書の中にとても興味深いことが書かれております。日本の社会には、能動的に信頼関係を構築することを必要としない、みんなが同じ環境にいるという安心感から生まれた安定があり、必ずしもそこに強い信頼関係が存在することを意味しない。一方、さまざまな人種、文化、価値観から構成され、社会階層が絶えず激動してきた欧米の社会は、相互の信頼関係をゼロから構築するという苦難の試みを長年続けており、この点では日本よりも伝統があるということになる。このような論点を整理するために、著者は、日本社会が伝統的に持っている安定性を「安心」と呼び、独立した個々人が相互に尊重し合う関係を「信頼」と呼んで、両者を区別しています。現在、日本では終身雇用制度が崩壊しつつあり、減少傾向にあった犯罪件数も近年増加に転ずるなど、社会や組織の安全が脅かされています。しかし、それは「信頼」の崩壊ではなく、あくまでも日本型の「安心」の崩壊ということになります。これからの日本社会は、従来型の安心システムから、新たな信頼システムへと移行できるかどうかが、社会や経済の効率的な運営にとって重要になると思います。日本の社会では、人材不足がきっかけとなって、ダイバーシティに目を向けるようになりました。性別、国籍、年齢などにとらわれず、優秀な人材を確保し、能力を存分に発揮してもらうことを通じて組織の発展・人材育成にも繋がる施策です。まさに『信頼関係の構築』です。私も多様性や異質なものを受け入れ、その特性を理解することが大切だと考えており、学長として本学でもダイバーシティを推進していこうと決意しています。女性のみならず誰もが働きやすい環境を目指して環境改善を進めて参ります。皆さんにもダイバーシティについて今一度考えていただければと思います。

本学では、いよいよ来月から新設される獣医保健看護学科に第1期の新入生が入学します。私も大変嬉しく思っております。引き続き社会からの要請に対応し時代に合った姿に進化していけるよう改革に取り組んでいくつもりです。皆さんもこれからの麻布大学の進化を楽しみにしていてください。社会では、これまで本学を巣立った数多くの同窓生が活躍しています。同窓生の活躍は本学のかけがえのない誇りです。本学の同窓生はきっと皆さんを支援してくれることは間違いありません。これから人生を左右する大きな出会いが数多くあると思います。皆さんには、これから多くの人と出会い、喜びや悲しみを分かち合いながら素晴らしい人間に成長して欲しいと願っています。

最後に新しい旅立ちをされる卒業生の皆さんに、改めて心からお祝いを申し上げるとともに、今後のご活躍と末永いご多幸を祈念して、私からの式辞といたします。

令和6年3月15日
麻布大学長
川上 泰