平成23年度 - 入学者受入式における学長告辞
平成23年度の新入生を迎えるに当たって
麻布大学 理事長・学長
政岡 俊夫
平成23年度の新入生を迎えるに当たり、学長として一言ご挨拶申し上げます。既にご存知のように、去る3月11日に発生いたした東北地方太平洋沖地震は、東日本の太平洋側に多大の被害をもたらし、筆舌し難い惨状を呈しております。被災された方々の現状を考えるにつけ、大変心の痛む思いが致しておりますが、君達とて同じ思いでいることと存じます。
この国難と言うべき事態に対して、我々は何ができるか、何をなすべきかを考え、東日本のこれからの復興に尽力する必要があります。
過って我が国は、66年前の1945年(昭和20年)に太平洋戦争の終結を迎え、北海道から沖縄まで国土は焦土と化し、正にゼロからの復興でした。66年を経た今日、世界有数の経済大国となり、世界からは奇跡の復興と賞賛され、途上国は日本をモデルとして自国の発展に努めるようになっております。
この我が国の発展を作り出したのが、1960年(昭和35年)代の高度成長期であり、この高度成長期を支える原動力となったのが、東北や北海道、九州沖縄、中国四国といった地方都市からの、3大都市圏である東京圏、大阪圏あるいは名古屋圏への、集団就職と称する人口の移動でありました。第一次産業である農業の機械化により、余剰労働力が第二次、第三次産業の発展の原動力となり、今日の我が国の繁栄をもたらしたことは明白な事実であります。
我が国の繁栄の礎を担った東北地方が、このたびの地震と津波により壊滅的な被害をうけ、再びゼロからの復興に向け歩み始めようとしておりますが、66年前と明らかに異なる点は、東京から西では少し国力が衰退したとはいえ、なお世界有数の繁栄を謳歌する日常的な生活が営まれているところであります。今こそ、3大都市圏をはじめ東京以西の経済力と叡智を結集し、東北地方の復興に当たるべきと思っており、これが今、日本社会がとるべき策と考えるからであります。
また、君達は今何をなすべきかと言えば、震災に遭われた方々の心情を思いやり、少しでも復興のお役に立てる各種のボランチィア活動もその一つではあります。しかし今君たちが真に成すべきことは、知を磨き知を蓄えることにあると考えております。
震災から11日目の3月22日朝日新聞のコラム、「本を開けば」で思想家、吉本隆明が親鸞の考えを紹介し、親鸞は「人間には往(い)きと、還(かえ)りがある」と言っております。「往き」の時には、道端に病気や貧乏で困っている人がいても、自分の為すべきことをするために、歩みをすすめればいい。しかし、それを終えて帰ってくる「還り」には、どんな種類の問題でも、すべてを包括して処理して生きるべきだと。悪でも何でも全部含めて救済するために頑張るんだと、かわいそうだから助ける、あれは違うから助けないといったことではなく、「還り」は全部助ける。吉本隆明は、しきりがはっきりしているのが親鸞の考え方だと述べております。
私は君達に親鸞の考えに従えとは申しませんが、君達の人生は正に「往き」のまっただ中にあると思います。東北地方の復興はこれから始まるところです。本当に長く厳しくそして時間がかかる取り組みになります。4年後あるいは6年後には君達が、その主役となり直接的或いは間接的に東北地方の復興を担う事になります。そのためにも今はしっかりと知を磨き蓄え、来るべき「業(おこない)」に備えるべき時であると考えております。君達には本学の教育環境と私達教職員を充分に活用して、知の涵養に努めていただきたく存じます。
平成23年度は我が国にとっても君達にとっても生涯忘れえぬ年度、いや忘れてはならない年度である事を申し上げ、君達を本学に迎える言葉といたします。
平成23年4月5日 本学大教室にて




