学校法人 麻布獣医学園

学園の概要ABOUT

平成30年度 麻布大学 入学式 理事長 祝辞

平成30年度 麻布大学入学式が挙行される,この良き日にあたり,麻布獣医学園理事長として,お祝いを申し上げます。
新入生の皆様,ご入学,おめでとうございます。また,保護者の皆様,並びにご家族の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。そして,皆様を,この麻布大学にお迎えすることに対し心よりお慶び申し上げます。
入学生の皆様は,これから,このキャンパスで,様々なことを学修し,また,新しい友人,先輩・後輩,教職員と出会い,さらにクラブ活動などに励む日々を送ることになるわけです。そして,この麻布大学には,様々な教育・研究の施設や設備など,皆様の学びと成長のための環境が整備されております。また,ここには優れた科学者・研究者でもある教員がそろっております。入学者の皆様は,夢と希望に向かって,自ら学びの心に火をともしていただきたいと存じます。そして,私たち麻布獣医学園は,皆様の夢と希望がかなうように,さらに,皆様が社会で大いに活躍できるように,全力で皆様をサポートしてまいります。

さて皆様,上流には小河内ダムがあり,神奈川県と東京都の境を流れる多摩川をご存知でしょうか。この川は,半世紀ほど前には「死の川」とよばれ,水質は悪く,様々な生き物がその姿を消しておりました。当時,家庭用排水に由来する洗剤などが原因で,二子玉川の付近では,白い泡が川の表面を覆い,風が吹くと異臭とともに付近の道路や住宅へこの泡が飛ばされておりました。この時代,日本は高度成長期のまっただ中で,東京へ人口が集中し,この多摩川付近では広大な宅地が造成され,人口が急増し,家庭から排出される生活排水の多くが多摩川へ流れ込んでおりました。そして昭和32年には上流の奥多摩に小河内ダムが完成し,多摩川の流量が制御できるようになりました。また,ダムの下流にある羽村取水堰では,水道用の原水を効率的に取り込めるようになりました。しかし,その一方で,羽村取水堰の下流では,水量が不足し,晴天が続くと「瀬切れ」という,水が流れない部分が現れ,生活排水がより多く流入して,水質は悪化していきました。この頃から,日本では水質汚濁などの公害に対する環境対策がとられるようになり,翌年に水質汚濁防止法が施行されました。その後,この麻布大学にも近い多摩ニュータウンの建設と歩調を合わせて,東京都で初めての下水処理施設が稲城市の多摩川の隣接地に建設され,下水処理事業の運用が開始されております。その後も多摩地区に次々と下水処理場が建設されました。これらの下水処理場では,微生物で有機物を分解させ,塩素消毒を施し,処理した水を再び多摩川へ放流します。このような下水処理によって,現在では,アユやサケが多数生息し,様々な生き物が多摩川に戻ってきております。最近では,この下水の処理技術はさらに向上し,赤潮の原因となる窒素やリンを除いたり,より微細な汚れを除去したりする高度な処理技術も導入されております。さらに佐賀市では,有明海苔を生産する有明海へ注ぐ河川の下水処理は,海苔の生産シーズンには窒素の放水レベルを海苔の養殖に適した濃度,良質な海苔が生産できるように調整するようなことまで実施しております。

話を多摩川に戻しますが,多摩川の水源は,東京都の一番東の奥で山梨県と埼玉県の県境の近くに位置する「水干」とよばれる場所とされております。ここからの水が,小河内ダムに貯まり,そして,ここから多摩川として下っていきます。しかし,この水の多くは,直接,多摩川を下りながら東京湾へたどり着くことはありません。多摩川の上流域にある羽村取水堰で,ここは水源の「水干」から84キロの下流に位置しますが,この羽村取水堰で,その約8割の水を玉川上水に取り入れております。では,この羽村取水堰より下流の多摩川にはどこから水がきているのでしょうか。秋川や浅川といった支流の川からの水や川底などからの湧き出す伏流水も存在しますが,なんと,約半分の水が下水の処理水であります。この区間の多摩川には,東京都の6つの下水処理施設のほか,多くの下水処理施設があり,膨大な下水の処理水が多摩川に流されております。この量は,羽村取水堰で抜き取られる水量よりも多いわけです。つまり,多摩川の中流域を流れる水の水源は家庭からの排水の処理水,すなわち,下水の処理水ということになります。

このように多摩川は,この地域の人の生活に大きく影響されるわけです。例えば,多摩川の下流域の冬の水温は,近年上昇傾向にあり,この20年間で,その平均温度は3度近く高くなっております。この水温の上昇は,下水処理施設からの放流水の水温上昇やその放流量の増加がこの水温上昇の原因と考えられています。すなわち,私たち人間の暮らしが多摩川の水温を上昇させているわけです。そして,この水温上昇は,多摩川やその水が流れ込む東京湾において,多種多様な生物に大きな影響を与えております。さらに,大きな視点からすれば,私たち,人類の生活は,日本の,いや地球の生態系に大きく影響を及ぼしている,ということを私たちは自覚しなければいけない,ということであります。このような多摩川の水温上昇は,この地域に住む人間と環境との間に存在する課題の1つです。このように地球規模での人間社会と生態系との間に生ずる様々な課題が存在するわけです。そして,人と動物,あるいは人と環境との間に存在する様々な課題を解決しようとするのが「地球共生系:人と動物と環境との共生をめざして」です。この「地球共生系」,これこそがこの麻布大学の教育・研究の理念で,メインテーマであります。

この麻布大学は,決して大きな大学ではありませんが,小さくても豊かで多様な生命を育んでいる川」のごとく,生命を構成する水のごとく,多くの生命科学を学修した優秀な人材を育み,さらに,生命科学を基本とした教育・研究を展開し,人類の福祉のために,大いに貢献する存在であるべく,全力でチャレンジしております。そして春爛漫の本日,皆様をこの麻布大学の一員としてお迎えしたわけであります。

最後になりましたが,ここに,ご参列いただいた,すべての皆様に,心より感謝申し上げ,そして,皆様のご健勝とご多幸を祈念致しまして,私の祝辞とさせていただきます。

平成30年4月2日
麻布獣医学園
理事長 柏崎 直巳