麻布大学

卒業生メッセージ(ウェブ版)

ニホンカモシカを追い続け
研究の道へと

野生動物研究

山梨県富士山科学研究所 勤務 髙田 隼人

麻布時代の学びが、そのまま生きている

髙田さん画像当研究所は「火山防災研究部」「環境共生研究部」、そして私が所属する「自然環境研究部」で構成されています。自然環境研究部には、大きなふたつの課題があります。まずは、富士山の自然の特色についての基礎研究。そして、富士山に生息する動植物や自然環境をどのように守っていくかを追究する応用研究です。私は富士山に生息するニホンカモシカなどを観察し、保全の観点から調査・研究を進めています。

ニホンカモシカとのかかわりは、私が麻布大学の「野生動物学研究室」にいたときから始まっていました。大学時代と比べてさまざまなことがわかるようになったものの、野生動物の生態は簡単には解明できないため、時間をかけて粘り強く取り組むつもりです。

長野県の浅間山をフィールドに研究を続け、博士課程3年次の夏に当研究所に着任してからも、浅間山で取得したデータの論文化にいそしんでいます。現在取り組んでいるものとしては、麻布大学野生動物学研究室と共同で進めた「同所的に生息するニホンカモシカとニホンジカの食性比較―食性の重複と生息環境の関係―」というテーマがあります。こちらを含め、博士課程までに取得したデータで論文化できていないものがあり、世に出すべく準備を進めているところです。こうした活動も、現在の業務のひとつとなっています。まさに、学部生・大学院生から続く学びが、今の仕事に丸ごと生かされています。

浅間山から富士山へ来て、わかったこと

髙田さん画像富士山に来てから、新たな発見がありました。

ニホンオオカミが絶滅した今、ニホンカモシカにとっては捕食者不在です。普通に考えたらニホンカモシカは比較的安全な状況にあり、子孫繁栄のためにもエサが豊富な場所を率先して選ぶはずです。ニホンカモシカが属する(ゆう)蹄類(ているい)の特徴からいっても、エサがたくさんあるところで繁殖率を上げる習性と捉えるのが自然です。しかし、ニホンカモシカがどのように富士山に分布しているのかを調べたところ、エサの少ない険しい場所にあえて生息することがわかりました。

一方、ニホンジカの場合は、シンプルにエサの多い場所を好みます。同じ大型草食獣でも、なぜニホンカモシカは捕食者に対する回避を優先するのか? 今、この点にもっとも関心があります。フレキシブルに行動するニホンジカとは一線を画し、ニホンカモシカはかつて存在したニホンオオカミをいまだに恐れ、身を守ろうとして崖に逃げ続けるのでしょうか。

実は、ニホンカモシカのこうした行動パターンを、浅間山で薄々感づいていました。地形などの調査条件がそろわず、当時は探究できなかったのです。浅間山でペンディングになっていた研究がここ富士山へ来て可能になり、充実した日々を過ごしています。

「面白い」を見つける研究者+教育者に

麻布大学で学べて良かったことが、ふたつあります。ひとつは、野生動物の研究の面白さに気づかせてもらったことです。大学での研究は、浅間山にいるニホンカモシカの社会構造を明らかにすることでした。ニホンカモシカを麻酔銃で捕まえてVHF発信機を備えた首輪を装着し、追跡するといった内容です。首輪のついた個体を観察しながら、個体同士の関係性を浮き彫りにすることが狙いでした。単独で生きているのか、群れなのか。一夫一妻なのか、あるいは一夫多妻なのか――ニホンカモシカの社会構造をじかに観察し、つぶさに調べていく中で、「やはり野生動物は面白い!」と心から思うようになりました。

もうひとつは、研究室の後輩の指導を通して、野生動物の面白さを共に追究する楽しさを体感させていただいたことです。「研究すること」「指導すること」は、これからも二本柱として続けていきたいと思っています。

できれば、大学教員になりたいです。そして、野生動物の魅力にひかれ、その学びに励む人たちが増えることで、自然保護に少しでもつなげていけたら、と願っています。