麻布大学

卒業生メッセージ(ウェブ版)

好きなことをとことん追求 その結果として、今がある

教務部 専任講師 調査役
公益社団法人 全国食肉学校 澤村 竜樹
2007年卒業/神奈川県立百合丘高等学校出身(取材:2019年12月)

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食肉加工業界にいる原点は、研究室にあった

 この業界に私がいるきっかけは、「食品科学研究室」にあります。研究室に入って少し落ち着いたころ、ハム・ソーセージの本場ドイツから来た食肉加工マイスターの技術を見る機会がありました。その面白さにひかれたことが、すべての始まりです。
 研究室には肉と脂の配合比や製法などを綴った歴代のレシピがあったのですが、プロの手順や作業における考え方はそれとは全く異なり、まさに目からウロコでした。感覚的に手を動かしているようで、科学的な裏付けもしっかり頭に入っていた様子に、ハム・ソーセージの深い世界を垣間見た気がしました。その後、学内にある食肉加工設備を使ってのハム・ソーセージ作りに傾倒していきました。
 卒業論文は、肉色の変化がテーマでした。発色剤を使ってハム・ソーセージなどの食肉製品を美しく赤色化させ、おいしそうに見せるためには何が必要か、条件を変えつつ色味を測定する研究をしていました。発色剤には、使用制限の基準があります。決められた分量を添加していく中でより発色度を高く、効果的に製品を見せるにはどうしたらよいか、その後の加熱の条件で発色率がどう変わっていくのかをポイントに、実験を進めました。 正直にいってしまうと、一連の食肉製品が作れる立派な学内の加工場を使って、ハム・ソーセージをただひたすら作り続けていたかった――それが、この卒論を選んだ理由です。

現場で指導を受け、今は指導する側に

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 研究室を出た後は食肉加工品メーカーに勤め、工場で実際の作業に携わっていました。しばらく経つと少し踏み込んで勉強がしたくなり、個人経営のソーセージ店に転職。前述のドイツから来たマイスターも、かつては親方のもとで修行を重ねたように、私も数々の現場で学ばせてもらいました。
 そして、経験を活かせる場として研究室でお世話になった先生からご紹介いただき、本校でのキャリアをスタート。ハム・ソーセージ作りを中心に、牛・豚の脱骨などを教えています。
 本校で教えるチャンスを作ってくださった先生とは、今も連絡を取り合う関係です。時にはジョークを交えつつ、親しく交流させていただいています。こうした先生との近い距離感もあり、動物応用科学科の食品科学実習に特別講師として呼んでいただいたこともありました。このような形で母校の役に立てたことを、とてもうれしく思います。

好きなことは、とことん突き詰めればいい

 テクノロジーの進化とともに、機械化・自動化のスピードにますます拍車がかかる今の世の中ですが、実は食肉の世界においては、あまりそれが進んでいません。特に、ナイフを用いる脱骨作業は熟練を要することから、肉処理はまだまだ"人の手"によって支えられています。だからこそ、本校のような総合教育訓練機関が必要であり、私たち講師陣も全力でそのお手伝いをしています。次世代の担い手が、今後も本校から育ち続けることを願っています。
 この食肉加工業界は、広いようで案外狭いです。例えば、面識を得た食肉加工業者さんが麻布大学の私の恩師をご存知で、初対面ながらも恩師の話題で連帯感が生まれる、などといったことはよくあります。ライバル同士になるより、始めからお互いに仲間意識を持っているほうが、業界全体としても盛り上がっていけると思います。
 この業界で頑張るには、まず「肉が好き」という気持ちを大事にしてもらいたいです。「肉の業界をめざすため、肉を好きになってください」ではなく、「肉が好きだったら、それを職業にしたら結構楽しいぜ!」という点を強調しておきます。
 私自身としても、好きなことをやり続けてきた結果が、今です。とにかく若い人たちには、好きなことや興味を持ったことがあれば、とことん突き詰めてもらいたいですね。その先にたどり着いたところが食肉加工業界だとすれば、同じ仲間として、ぜひ一緒に頑張っていきたいものです。

学びのツール

_49T1285_.jpg脱骨ナイフ。大学時代に使っていたものは、柄が木製でした。学内の食肉加工場にあるスモークハウスなどの機械も、学びのツールであると同時に、良い"おもちゃ"でした。