麻布大学

卒業生メッセージ(ウェブ版)

患者を思いやる心構えが
病理標本の質を高めていく

臨床検査技師

東京女子医科大学病院本院 勤務 長谷川 嗣業

開設したての研究室で、基本のキから覚えた

長谷川さん画像高校生のときから医療系に興味があり、自分に向いていそうな職種を調べていくうちに、臨床検査技師の存在を知りました。大学に入ってから始めた検査のアルバイト先に麻布の卒業生がおり、いろいろと話を聞くうちに病理学に関心を寄せるようになりました。

私が入学した当時は、生命・環境科学部の前身である「麻布公衆衛生短期大学」と麻布大学が統合して間もないころでした。その影響で、私は1年次から研究室に入ることができました。選んだのは、病理学を専門とする「環境病理学研究室」。フレンドリーな先生方と野球をしに出掛けるなど、勉学以外の場でも交流を深められたのが、とても良い思い出となっています。ちなみに、現在の「病理学研究室」にいらっしゃる荻原喜久美先生は、私の先輩に当たります。

入室した当初は学ぶというよりも、器具の取り扱い方や洗浄の仕方を知るのがメインで、ほとんど病理学的な勉強はやっていませんでした。丹念にスキルを積み重ねていくことが、当時は良しとされていたのです。我々の時代にもカートリッジ式の替え刃はありましたが、各自に組織切片作製用の一本刀が渡され、それを研いで刃を作るところからスタート。研究室でイチからセオリーを知り、しっかりと切れる刃を作り出す技術を学ばせていただいたことは、今でこそ貴重な経験です。病理標本を作るための「薄切(はくせつ)」は、こうした研磨作業ができてから、ようやく学べるようになりました。

がんなどの検査や臨床研究を支える仕事

長谷川さん画像卒業論文のテーマは、疾患モデルとして四塩化炭素による脂肪肝を作り、肝線維化を見る試みでしたが、だいぶ苦戦しました。研究室では実験動物たちの飼育にも明け暮れており、朝から晩までの飼育当番のほうが、率直にいって印象深いですね。研究室に在籍した4年間で見聞きしたことすべてが、今の仕事の原点です。

大学卒業後は一般検査から始まり、細菌、血液、心電図、そして緊急検査報告をするような中規模病院に5年ほどいました。せっかく4年間も大学の研究室におりましたので、病理検査をやりたい思いが高まり、病理の部門で募集をかけていた東京女子医科大学病院を受け、こちらへ来たという流れです。

女子医大に勤めて、既に四半世紀がたちました。現在は、病理検査全般、免疫組織化学やゲノム検査試料作成と臨床研究の補助に携わっています。臨床研究の補助というのは、ドクターの研究論文や学位論文を執筆する上でのデータの準備です。製薬会社と共に行う抗がん剤などの治験研究も担当させていただいており、とてもやりがいを感じます。

がんの観察に欠かせない病理標本作製において、特に薄切の工程は人の技能に頼らざるを得ない部分で、機械化が難しい領域だと思います。病理検査には古臭いイメージもありますが、いのちにかかわる重要な検査の一端を担っていることは確かです。

技術が進化しても、患者さんへの思いは不変

病理検査の手法や対応も進化していくと思いますが、患者さんに対する姿勢は不変であるべきです。高い技術があっても患者さんに寄り添う気持ちがなければ、優れた臨床検査技師とはいえないでしょう。病理検査の場合、実際に患者さんに接する機会は少ないのですが、病理医が診断しやすいよう標本作製のクオリティを上げることで、結果的には患者さんが適切な治療を受けられます。きれいな標本を作るための心構えや一つひとつの所作に、患者さんへの思いがにじみ出ると思います。

私が患者さんを思うとき、気持ちの潜在的な部分には、母との絆があるのかもしれません。私は中学3年生のころ、母を胃がんで亡くしました。発見されたときにはもう手遅れで処置のしようもなく、対症療法で余命を全うさせるだけでした。もっと早く発見できていればとの思いがあり、高校時代に医療の道を志して今にいたります。

現場では今、患者さんを思う若い力を必要としています。