麻布大学

卒業生メッセージ(ウェブ版)

それぞれの農家さんに寄り添う良きパートナーでありたい

産業動物獣医師
北海道ひがし農業共済組合(NOSAI 道東) 釧路中部事業センター 標茶家畜診療所 村本 萌里季
2018年卒業/京都府・京都女子高等学校出身 (取材:2021年2月)

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先生方から影響を受け、大動物に興味・関心を持つ

 子どもの頃から犬を飼っていたこともあり、小動物を診る獣医師に憧れていました。かかりつけの獣医師さんが麻布大学をご卒業なさっており、この大学のことは昔から知っていました。大学に入ってからも、念頭にあったのは小動物臨床でした。麻布では小動物の実習が充実しているという印象を持ちましたが、さまざまな知識や経験を積む中で、目標は大動物臨床へとシフトしていきました。
 きっかけは、ふたつあります。ひとつは産業動物分野を教えていた先生方からの影響です。麻布大学には、農業共済組合(NOSAI)でキャリアを積まれた先生がいらっしゃいます。こうした先生方が語る現場での経験談に引き込まれ、次第に関心は大動物へと移っていったのです。先生が語ってくださった中でも、乳牛で起こりやすいとされる子宮捻転(ねんてん)の話が印象的でした。夜中に農家さんと一体となり、牛を転がして整復したそうです。無事に分娩(ぶんべん)を介助できたあと、ゆっくり年越しそばを食べたという話が心に残っています。
 もうひとつは「産業動物臨床実習研修」です。5年次からスタートした産業動物分野の授業を非常に興味深く感じていたところで友人から誘いを受け、研修の主催団体である「公益社団法人中央畜産会」に早速申し込みました。受け入れ側がちょうど今の職場で、手術に立ち会わせてもらうなど、さまざまな体験をさせてもらいました。数々の刺激を得る中で将来の仕事にしたいと感じ、ついにはこちらへ就職することに決めました。
 大学時代は伝染病についても、小動物から大動物まで幅広く深く学んでみたいと考えていました。「伝染病学研究室」に所属し、「バベシア」という血液寄生虫を研究しました。血液検査を頻繁に行っていたことから、研究活動で培った手技が現在の職場で役立っています。卒業研究は、下痢症状を伴う牛の糞便から、その原因菌とpH等の関連性を調べるといったものです。PCR装置を動かしてはコツコツと記録を取り続け、それを論文にまとめました。先日も、北海道獣医師会合同症例検討会において『乳牛の疾病予防のための預託時TP測定の有用性について』のデータをまとめて発表しましたが、研究室で身につけたデータ分析力が生かされました。

大動物臨床は奥深く、やりがいのある仕事

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 就職したNOSAIでは産業動物の臨床獣医師として、主に乳牛の診断・治療に当たっています。手術も行い、基本的に自分が診た牛には自ら執刀します。牛の分娩にも立ち会います。大学の授業で先生が話してくださった難産介助について、初めて聞いたときには想像もつかず、興味深く耳を傾けるだけでしたが、いざ自分が現場に出るとなると少なからずプレッシャーを感じました。それを克服し、自らの力で難産介助をやり遂げることができました。満面の笑みを浮かべた農家さんから感謝の言葉をいただき、深い充実感が込み上がってきたことを覚えています。ひとつのいのちを私自身の手で救うことができ、感無量の体験でした。
 この仕事には大動物臨床ならではの奥深さがあるだけに、とてもやりがいがあります。農家さんとの触れ合いも大好きで、和気あいあいと楽しい日々を過ごしています。いつもみなさんから気軽に声を掛けてもらうなど、獣医師としての成長を温かく見守っていただけていると感じます。

「みんなそろってHAPPYになれる酪農」が夢

 農場は今、それぞれにより良い牛群管理のあり方を模索しています。各農家さんで環境が違えば、飼い方も実にさまざまです。100通りの農家さんがあれば、それに適応する100通りの牛群管理法があるわけです。さまざまな農家さんに寄り添えたら、そして、それぞれに合った飼養管理の方法を一緒に探していける獣医師になれたらという気持ちで、毎日を大切に過ごしています。具体的な目標のひとつが、「ルーメン微生物」の発酵をスムーズに促す飼養管理に精通することです。乳牛の健康は、草や葉を胃の中で分解してくれるルーメン微生物によって保たれています。神秘的ともいえる乳牛独特の身体構造について、私の興味が尽きることはないでしょう。
 牛をさらに理解することで、牛も人間も働き過ぎず、より健康的でいられたら――それが私の願いです。"無理しない酪農"を農家の方々と共に考え、実現できたら、結果的には消費者においしい牛乳を提供できることにつながります。牛も、農家も、そして消費者も、「みんなそろってHAPPYになれる酪農」が、一番の夢です。

学びのツール

v_muramoto03_.jpg大学の授業で配付された資料をまとめたファイル。先生が疾患ごとにテーマを設け、講義してくださった内容です。画像付きで分かりやすくまとめられているため、今でもこのファイルを見返し、再確認しています。