麻布大学

卒業生メッセージ(ウェブ版)

努力が実を結び米国の専門医に
今後は獣医学教育で恩返しを

眼科専門医

どうぶつ眼科専門クリニック 院長 辻田 裕規

スペシャリストから刺激を受けた大学時代

辻田さん画像私が眼科診療に携わるきっかけは、大学時代に入った研究室です。「麻布大学附属動物病院」に来院した症例の診断・治療データの解析から深く学べることに興味を持ち、分野別に学生を募集していた研究室に志願。眼科に採用してもらえたところから、私の獣医眼科専門医人生はスタートしました。

「本当の自信は、努力をしなければ絶対に身につかない」――私のブログに残る、当時の自分を表現した言葉です。研究室に入ってからの私は、とにかく必死でした。やる気に火をつけてくださったのは、飽くなき探求心を持つ印牧信行先生の姿。毎晩遅くまで眼科について研究し続ける先生の背中を見ながら、「物事を極めるにはこんなにも努力が必要なのか」「ひとつ極めれば、それが将来の武器となるはずだ」と感じたものです。情熱みなぎるスペシャリストを間近で見たことが影響し、自分も専門性を高めていきたいと思うようになりました。

私が研究室に入ったタイミングは、ちょうど附属動物病院が完成して間もない頃でした。インパクトにあふれ、楽しみながら過ごした日々。学生である自分が臨床の最前線に顔を出せたのは、当時としては画期的だったように記憶しています。今も附属動物病院には第一線で活躍するスペシャリストがいらっしゃいますが、こうした環境は非常に恵まれていると思います。

狭き門をくぐり、アメリカ獣医眼科専門医に

辻田さん画像学んだ眼科の知識を将来に生かしたい、という思いは大学時代からありましたが、専門医はおろか、アメリカでも通用する眼科専門医の資格を取ることすら意識していませんでした。

転機が訪れたのは、獣医師となって5年目のころです。コーネル大学に研修で1週間滞在した際、眼科専門医育成プログラム(レジデントプログラム※)の詳細を知りました。そのプログラムに参加するにも競争率は例年50~60倍とかなり厳しい状況だったもののチャレンジが実を結び、レジデントプログラム後の専門医試験に合格し、アメリカ獣医眼科専門医になることができました。

※レジデントプログラム:3年以上にわたって行わる、獣医眼科専門医育成プログラム。本プログラムに参加するには獣医科大学を卒業後、少なくとも1年以上にわたる獣医師としての臨床診療経験が必要。レジデントプログラム終了後は専門医認定試験の受験が許可され、これに合格して初めてアメリカ獣医眼科専門医としての活動が可能になる。
(参考:「The American College of Veterinary Ophthalmologists® (ACVO®)」HP http://www.acvo.org/certification-1

何かをめざし、目標を掲げてその達成に向かっていく私の活動パターンはクリニックを経営する今も変わらないですが、そんな私を突き動かすのは、父とのつながりです。

私が大学5年次のときです。60歳で定年退職し、悠々自適な第二の人生を満喫する一歩手前、父は58歳で息を引き取りました。父の死を目の当たりにした私は、人生のはかなさと同時に、限りある人生を痛感しました。「人間五十年」の時代ではないですが、それくらいの気持ちで日々考え、具体的に動かないと人生はあっという間に過ぎていきます。「事を成す」には、日々人一倍自分を磨くことが大事だと感じています。また、父は海外への赴任経験があったことから、「世界を見ろ」そして「世界一の獣医師になれ」と、最後の言葉を私に(のこ)してくれました。

とにかく、やれるだけのことをやらなければならない。とりあえず、走れるうちは走り続けなければならないと思っています。

専門医を育て、獣医学教育の発展を支えたい

麻布大学のある学生さんが私のクリニックを訪れ、同じようにアメリカで学びたいと熱く語ってくれたことがあります。彼には「やる気の炎を燃やすのは自分自身であるべきで、周りから環境を与えられなくても事を成していく『自燃性』の人間であれ」と伝えました。さらに、「30歳から先は周りの支えに気づき、周りに感謝しながら進んでいけば、さらに深い充実感が得られるはず」と付け加えました。私自身、アメリカへ渡ってからは、ご縁があっての「今ある自分」を強く感じているからです。

ご縁や置かれている環境を大切にし、感謝する姿勢は、アメリカで私をご指導してくださった先生方から学びました。自分のためではなく、相手を喜ばすための努力を、決して惜しまない人たちでした。こうした存在こそ、"本物(プロフェッショナル)"なのだと感じました。

これから私は、この業界に恩返しをしていきたいと考えています。私のクリニックで3年間レジデントとして経験を積めば、アメリカ獣医眼科専門医の資格が得られます。一匹の鶏が卵を産み、雛から育て上げるようにして専門医一人ひとりを育成し、日本各地へと後進がどんどん分散していってくれたら、これほど喜ばしいことはありません。ひいては、獣医学教育の発展に貢献するのが、私の夢です。