麻布大学

ニュースNEWS

プレスリリース:ポリヒドロキシ酪酸による炎症性腸疾患抑制作用を解明

 麻布大学 獣医学部 獣医学科の永根大幹講師は、東京工科大学 佐藤拓己教授、日本ペットフード株式会社との共同研究により、生分解性ポリエステルの一種であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)が腸内細菌により分解を受け、血中の3-ヒドロキシ酪酸濃度を増加させることを明らかにしました。また、指定難病である潰瘍性大腸炎マウスモデルにおいて、PHBの治療効果を明らかにしました。
 これらの結果は、腸内細菌によりPHBが分解され、大腸において持続的に3-ヒドロキシ酪酸を放出することが示され、腸内細菌叢に関連する疾患の治療に応用できることを示唆しています。また、本研究チームでは、初めて生分解性ポリエステルが腸内細菌を介したIBD抑制作用を示すことを明らかにしました。本研究成果は米国実験生物学会連合の会誌である「The FASEB Journal」に掲載されました。

麻布大学、ポリヒドロキシ酪酸による炎症性腸疾患抑制作用を解明

<背景と目的>
炎症性腸疾患(IBD)は難病として知られており、様々な治療アプローチが検討されています。腸内細菌叢とその代謝物もIBDの病態に関与することが知られており、特に短鎖脂肪酸が重要な役割を持ちます。酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸は揮発性が高いため、IBDが生じる大腸に送達することは困難です。そのため、酪酸菌など短鎖脂肪酸産生菌の生菌剤による治療が試みられています。
 そこで、本研究チームでは、短鎖脂肪酸の一種である3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)のポリエステルであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)に着目しました。PHBは生分解性ポリエステルであり、土壌中の微生物により分解を受け3-HBへと変換されます。本研究では、腸内細菌は土壌細菌と同様にPHBを3-HBへ分解できるか、また、PHBがIBDマウスモデルの病態を抑制する可能性を検討しました。

<結果と考察>
 PHBの経口投与は糞中および血中の3-HB濃度を上昇させ、IBDモデルの病態を抑制しました。また、組織中における抗炎症性の免疫細胞である制御性T細胞を増加させました。培養細胞系においても3-HBは制御性T細胞において重要な機能をもつ転写因子FoxP3の活性を増加させました。以上のことから、PHBは制御性T細胞の活性化を介して、IBDを抑制することが示唆されました。
 生分解性ポリエステルは持続可能な社会発展のために不可欠な素材です。本研究が示した生分解性ポリエステルであるPHBの応用性は、IBDを含む腸内細菌叢に関連する疾患への新たなアプローチとなることが期待されます。

<掲載論文>
掲載誌:The FASEB Journal
論文リンク: http://doi.org/10.1096/fj.202200919R
原題:The novel sustained 3-hydroxybutyrate donor poly-D-3-hydroxybutyric acid prevents inflammatory bowel disease through upregulation of regulatory T-cells
和訳:ポリヒドロキシ酪酸は3-ヒドロキシ酪酸の徐放により制御性T細胞を活性化し、炎症性腸疾患の病態を抑制する
責任著者:永根 大幹(獣医学部生化学研究室、ヒトと動物の共生科学センター)

<参考情報>
●麻布大学 獣医学部について
麻布大学は、2025年に学園創立135周年を迎えます。動物学分野の研究に重点を置く私立大学として、トップクラスの実績を基盤に新たな人材育成に積極的に取り組んでいます。
獣医学部には獣医学科と動物応用科学科が設置されています。獣医学科では、全国共通のモデル・コア・カリキュラムと参加型臨床実習に対応した獣医学教育はもちろんのこと、臨床教育に適した施設・設備を整備して充実した教育を実践しています。さらに、多くの研究室において動物に関して多様な研究活動を行っています。
麻布大学獣医学部

●ヒトと動物の共生科学センターについて
「ヒトと動物の共生科学センター」は、文部科学省・私立大学研究ブランディング事業「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」の後継事業として位置づけ、麻布大学 附置生物科学総合研究所内の研究部門に、プロジェクト研究の発展型として本センターが立ち上がりました。研究を基軸として、それにかかわる学生の教育、そして社会とのつながりを深めることで、ヒトと動物・環境の新しい共生の形を探求し、実現することを目指します。
ヒトと動物の共生科学センター

●日本ペットフード株式会社について
日本ペットフード株式会社は、1960年に国産発のドッグフードを発売しました。「私たちは心のふれあいを大切にし、ペットフードを通して家族とペットの生活に、憩いと潤いを提供します。」を企業理念とし、ペットとその家族の一番の願いを受け止め、ペットの健康と長寿を追求するために努力を惜しまず、新たなペットフードの開発に積極的に取り組んでいます。
日本ペットフード株式会社

本件のお問い合わせ先<広報部門の連絡先>
担当部署 総務部渉外課:磯野、野鶴
E-mail koho(a)azabu-u.ac.jp
※(a)を@に変更してください。