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プレスリリース:麻布大学などの研究グループが、日頃のオメガ3系脂肪酸摂取が 産後うつを予防する可能性を発見

麻布大学オメガ3摂取で産後うつ予防の可能性

麻布大学生命・環境科学部食品生命科学科の守口徹教授、原馬明子特任教授、独立行政法人地域医療機能推進機構 相模野病院(神奈川県相模原市)及び太田油脂株式会社(愛知県岡崎市)の研究グループは、女性の産後のメンタルヘルスとさまざまなオメガ3系脂肪酸(※1)の摂取の関係性に関する観察研究および介入研究を行い、妊娠中にα-リノレン酸(※1)を摂取することで産後のメンタルを安定させる可能性を見いだしました。
本研究成果は2023年10月13日、栄養学に関する学術誌Nutrientsに掲載されました。

<研究のポイント>
・世界的な調査で、妊婦の10~20%が産後うつを経験していると報告されています。
・オメガ3系脂肪酸を多く含むエゴマ油や魚油を妊娠中の女性に12週間摂取してもらい、産後1ヶ月時に母親の産後うつ状態に関するメンタルヘルススコアを調査しました。
・オメガ3系脂肪酸の一種であるα-リノレン酸を摂取したエゴマ油群では、産後うつに関するメンタルヘルススコアが一般的なスコア(historical control: 既存試験において得られたデータ)に対して、良好な値を示しました。

<背景と目的>
日本でも、ライフスタイルの変化に伴い、産後うつなどの周産期(妊娠期から授乳期)のメンタルヘルスの予防が課題となっています。
胎児の発育のために、妊娠前からのサプリメントとして葉酸は広く認識されていますが、実は、母親は胎児の脳の成長のために、胎盤や母乳を介して十分量のオメガ3系脂肪酸(DHA)とオメガ6系脂肪酸(アラキドン酸)を供給しなくてはなりません。特に、オメガ3系脂肪酸を含む食材は魚介類や一部の植物油に限られるので、母親の摂取量が少ないと新生児の成長・発達だけでなく、母親自身の脳機能に影響を与え、メンタルヘルスが不安定になると考えられます。
そこで、妊娠中にオメガ3系脂肪酸を摂取した母親のメンタルヘルスへの影響を検討しました。

<結果と考察>
脂肪酸研究では、魚介類のEPAやDHAに着目した検討は多くありますが、植物油由来のα-リノレン酸を評価したものは世界でも少数です。今回、妊娠中期から後期にかけて12週間、エゴマ油を摂取した群で産後のメンタルヘルススコアが良好となりました。また、症例対照研究でも、母親の赤血球α-リノレン酸が低いと産後のメンタルヘルスが不安定になる関係を示しました。今後、オメガ3系脂肪酸の代謝産物や生理活性物質を測定し、メカニズムを検討する必要があります。また、日本人は魚食民族としてEPAやDHAは世界の中でも多く摂取していると思われていましたが、今回測定した妊婦の赤血球Omega-3 index(EPA+DHA)は、欧米並みに低いことが示されました。日本の妊婦も自身のメンタルヘルスの安定と胎児へのDHA供給のために、葉酸と同様にオメガ3系脂肪酸の摂取を意識してもらいたいと考えています。

<本研究成果について守口教授のコメント>
この試験は、出産と育児の経験のない初産婦を対象に、現在の妊婦の状況を把握する観察研究と、2種類のどちらかのオメガ3系脂肪酸摂取していただく介入試験を組合わせて実施しました。近年の世界的なオメガ3系脂肪酸の摂取不足が問題となっている中、日本も例外ではなく、特に妊婦のオメガ3系脂肪酸の摂取状況が欧米並みになっていることがわかりました。介入試験により、新しい生命を育む周産期の母親の健全なメンタルヘルスの維持にオメガ3系脂肪酸の必要性が明らかとなった重要な結果であると考えています。これまで実験動物で確認できていた周産期のメンタル問題がヒトにおいても証明できたことは、画期的であると考えています。

※1 オメガ3系脂肪酸とは、体のさまざまな機能に必要な脂肪酸の一種で、エゴマ油やアマニ油に多く含まれるα-リノレン酸(ALA)や、魚介類に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)がある。体内で合成されないため、食物から摂取する必要がある。

<掲載論文>
論文名:Effects of Varied Omega-3 Fatty Acid Supplementation on Postpartum Mental Health and the Association between Prenatal Erythrocyte Omega-3 Fatty Acid Levels and Postpartum Mental Health
和訳:産後のメンタルヘルスに対するさまざまなオメガ3系脂肪酸サプリメントの効果、および出生前赤血球オメガ3系脂肪酸レベルと産後のメンタルヘルスとの関連性
掲載誌:Nutrients
著者:Akiko Harauma, Hajime Yoshihara, Yukino Hoshi, Kei Hamazaki and Toru Moriguchi
DOI:10.3390/nu15204388
URL:https://doi.org/10.3390/nu15204388

<参考情報>
教授 守口 徹

食品栄養学研究室

機能性脂質研究室

麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科
生命・環境科学部 食品生命科学科は、3つの学び「食の情報」「食の機能」「食の安全」を軸として食の専門家教育を行っています。 食に関する情報の収集解析に必要なスキル(食のデータサイエンス)を身につけ、食の機能と食の安全に関する知識と経験を実践に生かすことができます。 3つの分野から自分の「やりたい!」を通して、人と社会の健康に貢献する人材を育てます。 法律で義務化された HACCPによる食品衛生管理について、食品安全マネジメント協会(JFSM)による承認を受けた食品安全研修の修了証を在学中に取得できる国内唯一の4年制大学です。


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