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プレスリリース:ハシボソガラスはサイズと重さでクルミを選ぶ

ハシボソガラス

麻布大学獣医学部・動物応用科学科・伴侶動物学研究室の今野晃嗣講師、帝京科学大学・生命環境学部・アニマルサイエンス学科の濱野鳥人氏、三橋百合香氏、島田将喜教授、東京大学・総合文化研究科の近藤紀子氏による共同研究グループは、野生のハシボソガラスがクルミのサイズと重さの情報を組み合わせて利用し、より価値の高いクルミを選択していることを明らかにしました。

野外で採餌する動物は、外見からは見えない食物の物理的特性を評価することで採食効率を高めています。カラス科の鳥類は優れた認知能力をもつことで知られていますが、野生のカラスが食物を選ぶ際に、視覚的な大きさや持ったときの重さといった感覚手がかりをどのように統合して判断しているのかというプロセスの詳細は、これまで十分に解明されていませんでした。

そこで共同研究グループは、日本に生息する野生のハシボソガラス(Corvus corone)を対象に、サイズや中身の有無が異なるクルミをペアにしてカラスに提示する野外実験を行いました。実験1(サイズ選好)では、見た目の大きさが異なる二つのクルミを提示したところ、カラスは最初の接触および最終的な持ち去りの両方において「大きいクルミ」を有意に高い確率で選ぶことが分かりました。一方、実験2(中身選好)では、見た目の大きさがほぼ同じで「中身が入ったクルミ」と「空のクルミ」を提示したところ、最初の接触では偏りがみられなかったものの、カラスが最終的にクルミを持ち去るときには「中身が入ったクルミ」を有意に高い確率で選ぶことができました。さらに、最初に触れたクルミが空であった場合、カラスは別のクルミに切り替える確率が有意に高まりました。
 
本研究は、野生のカラスが視覚情報(サイズ)で大まかなアタリをつけつつ、直接触れて得られる重量情報(重さ)を組み合わせて使うことで、採食効率を最大化している可能性を示しています。野生動物が実際の採餌場面において複数の感覚手がかりをどのように統合して環境に適応しているかを知るうえで、重要な知見となります。

本研究の成果は、アメリカ合衆国に本部を置くWiley社の国際学術誌「Ecology and Evolution」に2026年10月20日付で掲載されました。

<研究のポイント(本研究で新たに分かったこと)>

  • 野生のハシボソガラスは、見た目のサイズに差がある場合は視覚情報に基づいて最初の接触から一貫して「大きいクルミ」を選択しました。
  • 見た目で中身が判断できない場合でも、カラスは最初に触れたクルミが空であれば選択肢を切り替え、最終的に「中身入りのクルミ」を持ち去りました。
  • 2つのクルミの対数重量比が大きいほど「大きいクルミ」あるいは「中身入りのクルミ」を選ぶ確率が高まるという、心理物理学の法則に沿った適応的な意思決定プロセスが実証されました。

<背景と目的>

  • クルミや貝類のように硬い殻で覆われた食物は外見から中身の量や品質を直接確認できず、割るためにも大きな時間とエネルギーを要します。そのため、食物の物理的特性から「より重く、中身の詰まったもの」を正確に選ぶことは、採食効率の最大化および進化の観点から重要です。
  • カラス類は複雑な認知能力をもつことが知られていますが、外見(見た目のサイズ)と内部の価値(実の有無や重さ)が必ずしも一致しない自然下で、感覚手がかりをどのように相補的に統合しているかはよくわかっていませんでした。
  • また、動物の知覚識別は絶対的な重量差ではなく刺激間の「比率」に依存すること(Weberの法則等)が知られていますが、これが野外の複雑な環境下でどのように機能しているかは十分に検証されていませんでした。
  • そこで本研究では、野外の野生ハシボソガラスを対象に、視覚情報(サイズ)を操作した「実験1」と、見た目を揃えて重量情報(中身の有無)を操作した「実験2」を実施し、カラスのクルミ選択行動を調べました。さらに、クルミの重量比が選択精度に与える影響を定量的に調査するとともに、持ち上げや選択肢間の切り替えといったカラスの行動が最終的な意思決定に及ぼす役割の解明を目指しました。

<結果と考察>

  • サイズの異なる2つのクルミを提示した「実験1」では、カラスは最初の接触から「大きいクルミ」を選んだのに対し、2つのクルミのサイズを揃えて中身の有無を操作した「実験2」では最初の接触に偏りはみられませんでした。これは、カラスの初期行動が視覚情報に優先して導かれていることを示します。
  • また、中身の有無を操作した「実験2」では、最初に触れたクルミが空であった場合、カラスはもう一方のクルミへ選択を切り替える確率が上昇しました。さらに、カラスがくちばしでクルミを持ち上げる行動を調べたところ、「実験2」では、「中身入りのクルミ」を持ち上げたときにはそのクルミを持ち去る確率が有意に高くなりましたが、「空のクルミ」を持ち上げてもそのクルミを選ぶ効果はみられませんでした。カラスは見た目のサイズから想定される重さの「期待値」をもち、「見た目の割に軽すぎる」という予測誤差を検出しているのかもしれません。
  • 両実験において、2つのクルミの対数重量比が大きいほど高品質な選択肢を選ぶ確率が高まりました。刺激の「比率」に基づいて認識するという心理物理学の法則(Weberの法則等)が、野外の採食環境でも機能していることが実証されました。
  • 本研究の結果から、野生のハシボソガラスは視覚情報(サイズ)と触覚情報(重量)を柔軟に組み合わせることで採食効率を最大化していることが明らかになりました。

<掲載論文>
掲載誌:Ecology and Evolution
論文リンク:https://doi.org/10.1002/ece3.74554
原題:Wild Carrion Crows Choose Walnuts Based on Visual and Weight Cues
和訳:野生のハシボソガラスは視覚と重さの手がかりに基づいてクルミを選ぶ
著者:濱野鳥人、三橋百合香、近藤紀子、島田将喜、今野晃嗣

<参考情報>
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