麻布大学

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令和元年度

令和元年度麻布大学卒業生に贈る言葉

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。今年は新型コロナウイルスの世界的な蔓延で、日本も感染拡大の予防体制に入り、国の基本方針に従って、大学でも人の集まる集会等は開催を見送ることになりました。そのため、皆さんが楽しみにしていた3月の恒例で最大のイベントである卒業謝恩会や、晴れの舞台である卒業式を中止せざるを得なくなりました。学長としてもとても残念ですが、自然科学を学ぶ私たちは、人が作る風評や根拠のない予想に惑わされることなく、これを合理的な感染拡大阻止の対処法として粛々と受け止め、もうすぐ来る新しい春を待とうではないでしょうか。

皆さんに直接語りかけられませんが、ここに学長から卒業される皆さんの旅立ちに「贈る言葉」を届けます。

令和元年度麻布大学卒業生は、学部からは498名、大学院からは31名の皆さんがそれぞれの新しい世界に旅立ちます。皆さんはこの麻布大学で、丹沢山を望み、四季の移ろいを感じながら、卒業までの日々を相模原のキャンパスで学び過ごしました。卒業の日を迎えることができたのは自分自身の努力はもちろんのことですが、ご家族をはじめ周囲の方々の応援があったからです。このことをどうぞ忘れないでください。

さて、今、卒業を迎え、皆さんの一人ひとりの胸のなかには、学生生活の様々な思い出が去来しているのではないでしょうか。楽しかったことばかりではなく、辛かったこともたくさんあったことでしょう。しかし本学での出会いや、経験した全てのことが、今の皆さんの力になっているはずです。どんな些細なことも無駄になっていることは1つもありません。

皆さんは、米沢富美子(ふみこ)先生という物理学者をご存知でしょうか。米沢先生は「アモルファスの研究」で国際的に知られ、また、戦後の日本の女性科学者の草分けであり、女性初の日本物理学会会長を務めた方です。傍からみていると、米沢先生のその輝かしい活躍は彼女が「頭脳明晰だからだ」とか「育った環境がよかったからだ」と思いがちですが、彼女の人生は、多くの人がそうであるように決して順調だったわけではありません。

幼い頃に父親を亡くし、貧しい暮らしをしたこともありました。学生時代は女性だからと不当な扱いを受けたこともあったようです。結婚してからは3人の子育てに追われながら、海外や日本で研究に打ち込んでいましたが、自身の度重なる病、家族の不幸、母親の介護など次々と困難が押し寄せます。しかし、どんな状況にあっても常に前向きに取り組み、それらを乗り越えてきました。そのことから米沢先生は自分の人生を通して、生きていくために大切なことを、いくつかの生きる哲学として示してくれました。それは自分の可能性に自ら限界をひかないこと、優先順位をつけてまず行動に移してみる、集中力を養い、そしてあきらめないことだそうです。多くの人は「自分にはムリだ」とやる前からあきらめたり、「そのうちいつかやろう」と先に延ばしたりしがちです。またやってはみたものの思うように進まず「この仕事は自分に向いていない」「仕事を辞めたい」とめげてしまうこともあるかもしれません。しかし、自らの可能性を信じないまま、いつか思い出したときにやろうと思っているだけでは「いつか」はずっとやってきません。何かをやったときに失敗したり、壁にぶつかることは当たり前のことだと思ってください。このことを米沢先生がご自身の人生で教えてくれています。米沢先生の教えの全てでなくても良いので、これだけはと、ひとつでも自分の生きる哲学として身につけてください。 

皆さんは授業で聴いたことがあるかもしれませんが、この麻布大学は、この秋で創立130周年を迎えます。その長い歴史の中では、人の人生と同じように苦しい時がいくつかありました。その最大の危機は、先の大戦で、校地はもちろん、建物や機材の全てを爆撃で失い、日本も終戦となり、戦後の混乱の中、学校も先の見えない霧の中を迷走しました。しかし【校舎は焼けても教育は残る】という同窓生の言葉のとおり、学校関係者は決してあきらめず、可能性を信じ、新しい校地を求め、終戦から2年後、やっと皆さんが学んだ、ここ相模原の地で復活し、今日の発展した姿になりました。このプロセスは米沢先生の人生哲学そのものです。どんなに大変な状況にあってもめげず、あきらめず、今何をやるべきかを考え、教職員、学生、同窓生が心を一つにして行動に移し、教育を一度も中断せず、次から次へと夢中で教育の明かりを灯し続けてきました。

本学で学んできた皆さん一人ひとりの心の中のどこかには、この哲学を受け継いだ明かりが灯っているはずです。これは卒業しても決して消さないでください。これから皆さんは、社会で遭遇するであろう、様々な困難や壁の前に、失敗を恐れず、自分の可能性を信じて、あきらめずに取り組み続けてください。こういう努力は、皆さんの未来を照らす明るい光となっていくはずです。
皆さんが、今日、麻布大学を巣立ち、社会に飛び込み、誇りある麻布大学OB,OGとしてそれぞれの分野で、人々の役に立つ人材となって活躍していただくことを学長として期待します。

皆さんが幸せで充実した人生を送られることを心より願い、学長の贈る言葉といたします。もう一度、ご卒業おめでとう。

令和2年3月13日
麻布大学学長
浅利昌男