プレスリリース:人の痛みを分かち合える人材になってほしい-麻布大学スタンダード科目『地球共生論』で訴えた福島県双葉町長の願い-
麻布大学では、毎年、新入生を対象にした本学独自のスタンダード科目『地球共生論』を開講しています。今年度は、本学獣医学科卒業生でもある福島県双葉町・伊澤史朗氏による特別講義もあり、人・動物・環境の共生科学を学ぶ学生にとって、より学びの意識を高める授業となりました。
この『地球共生論』は、地球上で多様な人・動物・環境が互いに尊重し合い、共に持続させる、いわば「地球共生系」というキーワードを軸に、本学で学ぶ専門知識が社会にどのように貢献できるのか、私たちの役割は何なのか、学生にはその関係を学んでもらい、必要な知識と問題対応能力を身につけてもらうことを目的としています。
本学の誇る各学科の教員がオムニバス形式で担当し、全学科の学生が共通して学ぶことができるこの科目は、毎年学生からの授業評価アンケートでは、本学独自の取り組みや良さを再確認できてよかった等の非常に満足度の高い評価を得ています。
2024年4月15日(月)の初回授業では、今年度から獣医学部に新設された獣医保健看護学科と、生命・環境科学部 臨床検査技術学科の新入生161人が合同で受講しました。
本学でなぜ「地球共生系」という考えが生まれたのか。そもそも「共生」とは何なのか。
例年、初回の講義では学長自らが登壇し、学園創立134年にも亘る本学の歴史を辿りながら、この問いについて講義しております。
また、「共生」についてより深く考えるべく、伊澤町長には「東日本大震災・原発事故と双葉町の復興状況」について講義いただきました。
かつて福島県双葉町は、環境省の「快水浴場百選」にも選ばれた海水浴場やバラ650種類 1万本が咲き揃うバラ園など、数多くの魅力を有していました。しかし、東日本大震災で環境は一変し、地震・津波・原子力災害という世界にも例のない「複合災害」に遭い、全ての町民が避難生活を余儀なくされることになりました。
あの惨事から13年、未だ避難指示解除の見通しが立っていない区域が町面積の約85%にも上り、その中には福島県内中の除去土壌等を受け入れる中間貯蔵施設も含まれています。
伊澤町長の講義は、まず当時の被災状況から始まり、避難指示区域の現状、特に被災地にもかかわらず、中間貯蔵施設の設置を苦渋の決断で受け入れたこと、そして、「貯蔵開始後30年以内に県外への最終処分」という国との約束への道のりは長く険しく、進捗の見えない現状について語られ、言葉の節々に重い苦悩が感じられました。
この日、伊澤町長が一貫して学生たちに訴えかけた言葉は、「人の痛みを分かち合う人材になってほしい」という想いでした。
「犠牲になっているところが、ずっと犠牲になったままでいいのでしょうか。」
「自分の街さえ問題なければいい、迷惑施設を置かなければいいという考え方では、問題が解決できなくなってきているという現状を、どうか皆さんに理解してもらいたい。」
「誰かがなんでも引き受けるのではなく、痛みを分かち合う気持ちが大切なのです。」
誰かが引き受けなければならない、という苦渋の決断をされた伊澤町長の語りかけに、学生たちは熱心に耳を傾けていました。
また、この状況を乗り越えるべく、人優先の生活環境(災害に強い、景観も良い等)の整った新たな街づくり、雇用問題の解決に向けた23社の企業との協定締結・誘致、農業の再生と新興など、復興に向けた様々な取り組みも紹介されました。帰還希望者と、新たな移住者が共に営む街を目指されているとのことです。これも「共生」の一つです。
今年度の新入生のほとんどが、東日本大震災当時はまだ幼少期だったこともあり、震災の記憶が残っている学生は多くなかったのですが、授業終了後に次のような感想が届きました。
・原発事故については放射線の影響で住めなくなっている地域がある程度の知識しかなかったので、詳しく学べてよかった。誰かが中間貯蔵施設を引き受けないといけないのに、全国で誰も引き受けていない現実を知りました。
・他人事ではなく、これからの未来を担う私たちが責任を持って取り組んでいく必要があると思いました。
・私たち若者が関心を持たなければ復興は進まないし、各自治体が助け合いをしなければ、この問題は解決しないと思う。
・将来、自分が臨床検査学を学んでいく上で、何か貢献できることはないか考えたい。
「地球共生」という言葉を最初に聞いた時、あまりはっきりしたイメージが湧かなかった学生たちも、この日の授業を通して、日本から世界までの助け合い、"共"に"生"きているということが分かったようです。
獣医師、臨床検査技師、愛玩動物看護師等の資格スキルを身に付けて、現場で即戦力となるための勉強はもちろん重要ですが、麻布大学ではもう少し長期的な視野から、建学の精神「学理の討究と誠実なる実践」に基づき、人と動物との共存及び人と自然環境との調和の道を探求することを目的として、社会に貢献できる人材の育成を目指し、教育・研究を行っています。
他学科教員の話を聞きながら「地球共生」に関わる教養を深められる、本学でしか体験できない教育を通じて、世界で活躍していく学生たちの未来に期待します。
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