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プレスリリース:都市化でセミが夜に鳴く?昆虫の活動リズム変化を自動録音で解明

麻布大学生命・環境科学部環境科学科の新田梢助教、東京都立大学大学院都市環境科学研究科の盛拓貴大学院生(研究当時)、大澤剛士准教授、玉川大学農学部環境農学科の関川清広教授らの研究グループは、自動録音装置(ARU: Autonomous Recording Unit)(注1)を用いて、東京・神奈川の都市部および緑地におけるセミの鳴き声を24時間連続で観測しました。その結果、鳴き声が確認できた6種のセミは、種ごとに鳴く時間帯が明確に異なりました。さらに、アブラゼミとニイニイゼミは夜間光がない緑地域では日没とともに鳴き声が記録されなくなったことに対し、夜間光のある都市域では日没後の夜間にも鳴き声が記録されました。これは、都市域に存在する街灯等による夜間照明や高温環境が、セミの活動時間帯に影響している可能性を示唆するものです。本研究は、身近な昆虫であるセミの都市化に対する変化を明らかにするとともに、これまで鳥類やコウモリを中心に活用が進んできた自動録音装置による音声モニタリング(注2)が、セミのような身近な昆虫にも有効であることを示したものです。

本研究成果は、4月13日(日本時間)付けで、WILEYが発行する英文誌『Ecological Research』上で発表されました。本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートインフラマネジメントシステムの構築」の助成を受けて実施されたものです。

<研究のポイント>

・自動録音装置を用いて、東京・神奈川の都市域3地点、緑地域3地点で、2024年6月下旬から8月末まで24時間を通してセミの鳴き声を連続観測しました。
・観測の結果、6種のセミが確認され、種ごとに出現時期や鳴く時間帯が明確に異なることが示されました。
・6種のうち特に身近な2種、アブラゼミとニイニイゼミは、夜間光(夜間照明)のない緑地域では昼間のみ鳴き声が記録されましたが、夜間光がある都市域では夜間にも鳴き声が記録されました。
・都市の夜間照明や高温化がアブラゼミとニイニイゼミの活動時間帯に影響し、ひいては都市の音環境に影響している可能性が示唆されました。

<研究の背景>

生態系は、様々な音にあふれています。例えば風の音や水の音といった非生物音、鳥や昆虫の鳴き声といった生物音、さらには道路騒音のような人工音もあります。近年、自動録音装置(ARU)の性能向上と低価格化により、生態系における音声モニタリングが各所で行われるようになり、音環境は生態系における重要な要素であることが認識されつつあります。一方、これまでARUによる音声モニタリングは、鳥類やコウモリを中心に実施されてきており、昆虫を対象とした研究はまだ多くありません。身近な昆虫であるセミは大きく連続的な鳴き声を発するため、音声観測に適した生物です。セミの鳴き声は夏の音環境を特徴づける要素でもありますが、長時間にわたって鳴くこともあり、この実態を定量的に評価した研究は多くありません。こうした背景のもと、研究グループは、都市化がセミの鳴く時間帯に影響を与えている可能性を検討するため、東京・神奈川の都市域と緑地域でARUを用いた連続録音調査を行いました。

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写真1.観測に用いた機器。文庫本サイズで樹木等に容易に設置可能。

<研究の詳細>

研究グループは、東京都八王子市、町田市、神奈川県相模原市の計6地点に自動録音装置を設置しました(図1)。内訳は、東京都立大学南大沢キャンパス、玉川大学、麻布大学の3地点を都市域、町田市内の保全緑地である「図師小野路歴史環境保全地域」の3地点を緑地域として設定しました。録音期間は2024年6月22日から8月31日までで、セミの活動期にあたる時期を通して24時間連続で録音を行いました。得られた録音データを1時間ごとに区切って分析し、スペクトログラム上の特徴と実際の音を照合することで、各時間帯にどの種のセミが鳴いていたかを判定しました。その結果、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシ、クマゼミ、ツクツクボウシの計6種が確認されました。種によって初鳴きの時期や鳴く時間帯には違いがあり、例えばヒグラシは明け方と夕方付近に、クマゼミは主に午前中に鳴く傾向が見られました(図2)。

特に興味深い結果が得られたのは、アブラゼミとニイニイゼミが鳴く時間帯です。これら2種は、都市域、緑地域いずれにおいても日中に鳴いていましたが、都市域では夜間にも鳴き声が記録されました(図2)。これに対して、ミンミンゼミ、ヒグラシ、クマゼミ、ツクツクボウシは、調査地にかかわらず夜間の鳴き声はほとんど確認されませんでした。このことは、セミ類の都市化に対する感受性が種ごとに異なることを示唆するものです。具体的には、アブラゼミとニイニイゼミは都市域の街灯による夜間照明や高温化により、鳴く時間を変化させている可能性を示唆しています。都市化はセミの分布だけでなく、いつ鳴くかという行動の時間帯にも影響を及ぼしている可能性があるのです。

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図1.ARUを設置した地点。各大学の周辺は市街地に囲まれている一方、図師小野路歴史環境保全地域は森林および農地に囲まれている。前者のARU周辺は街灯や建物からの光により夜間でも一定の明るさがある一方で、後者のARU設置地点の周辺は街灯もなく、夜間は非常に暗くなる。

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図2.調査期間を通して観測されたセミの種類および鳴いていた時間帯(24時間)。種ごとでおおむね鳴く時間に傾向があることが読み取れる。なお、ヒグラシの鳴き声は玉川大、麻布大では記録されなかった。各大学キャンパス内では、アブラゼミ、ニイニイゼミが0時~4時、20時~23時という早朝、深夜でも頻繁に鳴いていることが読み取れる。

<研究の意義と波及効果>

ARUによる連続観測によって、都市化が昆虫の活動リズムに影響を与える可能性が示されました。アブラゼミとニイニイゼミは鳴き声が大きいので、これらが夜間に鳴くようになることで、コオロギ等をはじめとする夜間に鳴く生物にも何らかの影響を及ぼしているかもしれません。セミの鳴き声は単なる「夏の風物詩」ではなく、都市化に伴う生態系の変化を映し出す指標の一つになり得ます。また、本研究は、自動録音装置が昆虫のモニタリングにも有効であることを示しました。長期間にわたり24時間の観測を人手で行うことは現実的ではありませんが、ARUを用いることで、効率的かつ非侵襲的に生物の活動を把握できます。今後は、セミだけでなく、コオロギ類やバッタ類など、鳴き声で識別可能な様々な生物群に応用することで、都市や緑地における生物多様性の把握や環境変化の評価に役立つことが期待されます。

【用語説明】
(注1)自動録音装置(ARU: Autonomous Recording Unit)
野外に設置して自動的に音を記録する装置。長期間・連続的に生物の鳴き声や環境音を記録でき、生態学や保全分野で活用が進んでいる。

(注2)音声モニタリング
生物の鳴き声や環境音を記録・解析することで、生物の分布や活動、環境の特徴を調べる手法。

【論文情報】
掲載誌:Ecological Research
タイトル:Using Autonomous Recording Units to detect variation in cicada calling pattern across urbanized and green spaces
著者:Hiroki Mori, Takeshi Osawa, Kozue Nitta, Seikoh Sekikawa
DOI:10.1111/1440-1703.70066
アブストラクトURL: https://doi.org/10.1111/1440-1703.70066

<問い合わせ先>
(研究に関すること)
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 准教授 大澤 剛士
TEL:042-677-2623 E-mail:arosawa@tmu.ac.jp


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