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プレスリリース:多機能尾部センサで疾病罹患子牛の行動・生理的特徴を明らかに -自動疾病検知技術の高度化に向けて前進-

麻布大学、農研機構、北海道立総合研究機構、明治大学、全国酪農業協同組合連合会の共同研究グループは、独自に開発した多機能尾部装着型ウェアラブルセンサ1)を用い、約300頭の子牛を対象とした大規模なフィールド試験を実施しました。得られたセンサデータから、疾病に罹患した子牛は健康な子牛に比べて活動強度2)が低く、横臥(伏せている)時間が長く、体表温が高い傾向が見られました。これら複数の指標を総合的に解析し、機械学習3)を活用して疾病検知モデルを構築した結果、子牛の疾病を一定の精度で判別できることを実証しました。本成果は、現場での省力化や診断精度の向上に寄与し、スマート畜産4)システムの実現に貢献するものです。

農研機構では、省力的かつ高精度な家畜の健康管理を実現するアプローチとして、牛の尾の根元に装着するセンサの開発を主導し、「多機能尾部装着型ウェアラブルセンサ」を開発しました(図1、参考URL:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/forum/R2smaforum/animal/seika71.html)。
今回、農研機構、麻布大学、北海道立総合研究機構、明治大学、全国酪農業協同組合連合会の共同研究グループは、約300頭の子牛を対象に農研機構で開発した多機能尾部センサを装着した大規模フィールド試験を実施し、疾病罹患子牛の特徴を解析した結果、活動強度が健康な子牛よりも低く、横臥時間が長く、体表温が高い傾向がセンサデータから得られました。さらに、これらのデータをもとに複数の指標を総合的に解析し、機械学習を活用して疾病検知モデルを構築した結果、疾病罹患子牛と健康な子牛を一定の精度で判別できることを実証しました。本成果は、省力的かつ高精度な子牛の健康管理の実現に資するものであり、将来的には、本技術のさらなる改良に加え、本研究で得られた知見を自動哺乳機やカメラ画像解析などのウェアラブル以外のセンシング技術と統合することにより、疾病タイプの識別や検知精度の一層の向上が期待されます。

多機能尾部センサ(A)と装着器具(B)ならびに装着時の様子(C)
図1.多機能尾部センサ(A)と装着器具(B)ならびに装着時の様子(C)

<開発の社会的背景>

農林水産省の統計によれば、子牛の死亡や廃用に至る事故(死廃事故)の発生率は依然として高く、牛全体の死廃事故件数の約半数を占めています。こうした状況から、子牛の損耗を低減し、健全な育成を図るための効果的な対策の確立が求められています。

一方で、畜産分野では労働力不足の深刻化が進んでいます。農林水産省「畜産への新規就農及び経営離脱に関する調査」によると、担い手の高齢化や後継者不足を背景に、酪農経営・肉用牛経営のいずれにおいても離農が年率3~6%程度のペースで進行しており、担い手の減少が加速しています。

こうした状況の中、省力的かつ高度な家畜の健康管理体制の構築を実現するアプローチとして、スマート畜産技術が注目されています。子牛を対象とした技術としては、自動哺乳機やウェアラブルセンサが市販されていますが、前者では飲乳行動、後者では活動量といった摂食や行動に関する指標の把握が中心となっています。一方で、疾病の早期兆候を的確に捉えるためには、行動指標に加えて生理状態を含む多様な生体情報を継続的に把握することが重要と考えられます。こうした背景から、行動変化に加えて体温変化を同時に把握可能な新たなセンシング技術の開発が求められていました。

<研究の経緯>

農研機構では、過去10年以上にわたる家畜のスマート健康管理技術開発の取り組みの中で「多機能尾部装着型ウェアラブルセンサ」を開発しました。本デバイスは、加速度センサに加えて温度センサも搭載することにより、活動強度や起臥(立ち上がりや横たわり)、挙尾(しっぽを上げる動作)といった子牛の行動モニタリングに加え、体表温のリアルタイムモニタリングも可能としています。

今回、農研機構、麻布大学、北海道立総合研究機構、明治大学、全国酪農業協同組合連合会の共同研究グループは、この多機能尾部センサを用いて、疾病罹患時における子牛の特徴解明に取り組みました。さらに、機械学習の手法を用いて、センサデータから疾病罹患牛を判別する疾病検知モデルを構築し、その有用性を評価しました。

<研究の内容・意義>

1.疾病に罹患した子牛のセンサデータの特徴
哺乳子牛329頭から延べ1,996日分のセンサデータを収集し、1日あたりの平均活動強度、合計横臥時間、合計姿勢変化回数、挙尾指数5)のばらつき(標準偏差)および最高体表温を算出しました。これらの指標について、健康な子牛と、哺乳期に特に発生頻度の高い下痢症または呼吸器病に罹患した子牛を比較しました。
その結果、いずれの疾病群でも、健康な子牛に比べて平均活動強度が平均6%低く、合計横臥時間が平均25分長い傾向が見られました(図2)。また、呼吸器病の子牛では体表温が平均0.2℃高いことも明らかになりました。これらの結果は、多機能尾部センサが疾病罹患に伴う「活力や反応性の低下」、さらには「発熱」による体温上昇といった特徴を捉えられることを示唆しています。

2.機械学習による疾病検知モデルの開発
上記で得られた5つのセンサ由来指標(平均活動強度、合計横臥時間、合計姿勢変化回数、挙尾指数の標準偏差、最高体表温)を入力データとして、機械学習手法の一つであるランダムフォレスト6)を用い、子牛の状態を「健康」または「疾病(下痢症・呼吸器病)」に分類する疾病検知モデルを構築しました。
その結果、疾病を感度(疾病の個体を正しく疾病と分類する割合)76%で、健康を特異度(健康な個体を正しく健康と分類する割合)52%で分類できました。また、判別性能の指標であるAUC-ROC7)は0.71となり、本モデルが健康と疾病を判別する基礎的な能力を有していることが示されました。

センサデータが示す健康群と疾病群の特徴差と疾病検知の流れ

図2.センサデータが示す健康群と疾病群の特徴差と疾病検知の流れ
注1:値は推定平均値(95%信頼区間)を示す。95%信頼区間は、同じ条件で推定を繰り返したときに、そのうち95%の区間が真の平均値を含むことを意味する。*:健康群と比較して有意差あり(P < 0.05)

<今後の予定・期待>

本研究では、多機能尾部センサを活用することで、疾病に罹患した子牛の行動や体表温の特徴を把握できることが示されました。さらに、機械学習を用いて構築した疾病検知モデルは、子牛の下痢症や呼吸器病の罹患を一定の精度で判別できることを示し、多機能尾部センサの実用化に向けた可能性を裏付ける結果となりました。
今後は、データのさらなる蓄積とモデルの高度化に加え、本研究で得られた知見を自動哺乳機やカメラ画像解析などウェアラブル以外のセンシング技術と統合することで、疾病タイプの識別や検知精度の一層の向上が期待されます。これらの取り組みは、労力削減と診断精度の両立を図る先進的なスマート畜産システムとして、子牛の損耗低減に貢献することが期待されます。

<用語の解説>

1) ウェアラブルセンサ
人や動物の身体に装着して生理学的・生化学的・運動的データをリアルタイムに取得し、無線通信で送信することで、診断や遠隔モニタリングを可能にする小型のセンサデバイスを指します。畜産分野では、家畜に装着して個体ごとの健康管理や繁殖管理を省力化・高度化する目的で利用されています。
2) 活動強度
動物が「どれだけ活発に動いているか」をセンサで記録した加速度データから数値化した指標です。
3) 機械学習
機械学習は、大きく「教師あり学習」と「教師なし学習」に分けられます。そのうち教師あり学習は、大量のデータを用いてコンピューターに学習させ、データに内在するパターンや規則性を見いだして分類や数値予測を行う手法です。解析には、ランダムフォレストやサポートベクターマシンなど、様々なアルゴリズム(データからパターンを学習するための計算手順)が用いられます。
4) スマート畜産技術
ロボット・人工知能(AI)・モノのインターネット(IoT)などの先端的な情報通信技術を活用し、作業負担の軽減や生産性の向上を図る新しい畜産技術の総称です。主な目的には、家畜のセンシング・モニタリングによる健康・繁殖管理の効率化、畜舎環境などのセンシングによる飼養管理作業の効率化、ロボットの導入による作業の自動化・軽労化、経営データ管理の高度化などがあります。これらの技術の活用は、農林水産省が主導する「スマート農業実証プロジェクト(2019年4月開始)」や、「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」(通称:スマート農業技術活用促進法、2024年10月施行)により、現場への導入が強力に推進されています。
5) 挙尾指数
多機能尾部センサの加速度データから算出される、尾が「どれだけ持ち上がっているか」を示す指標です。本研究では挙尾指数の変動の大きさ(ばらつき)に注目し、尾の動きが頻繁になる状態(例:下痢症のときの尻尾の上げ下げ)の指標として用いました。
6) ランダムフォレスト
複数の「決定木」(はい/いいえの質問を重ねて分類するモデル)を組み合わせて予測する機械学習の手法です。1本の木だけで判断するよりも、複数の木の結果をまとめることで、より安定して高い精度の予測が可能になります。
7) AUC-ROC(ROC曲線下面積)
機械学習モデルの判別性能を表す指標です。0から1の範囲の値をとり、1に近いほど、モデルの判別性能が高いことを意味します。

<発表論文>

Behavioral and physiological differences associated with diarrheal and respiratory
diseases in individually housed preweaning Holstein female calves detected using a multimodal tail-attached device. Furukawa E, Ozawa T, Matsui Y, Sasaki Y, Murayama K, Noguchi M, Yoshioka K, and Higaki S. Smart Agricultural Technology. DOI: https://doi.org/10.1016/j.atech.2025.101499

<関連情報>

予算:日本中央競馬会(JRA)特別振興資金助成事業「乳用子牛のスマート健康管理技術開発事業(2022~2024年)」
特許:
特許第7643679号「家畜の健康状態管理システム、家畜用ウェアラブルデバイス、家畜の健康状態管理方法及びプログラム」
特許第7291944号「家畜用ウェアラブルデバイス、センサ装置取り付け具、センサ装置の装着方法」

研究推進責任者:農研機構 動物衛生研究部門 所長 勝田 賢
研究担当者:同 衛生管理研究領域 研究員 古川 瑛理
主任研究員 尾澤 知美
上級研究員 檜垣 彰吾
麻布大学 獣医学部 臨床繁殖学研究室 教授 吉岡 耕治


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