麻布大学

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プレスリリース:遺伝子検査の普及が犬の「進行性網膜萎縮症(PRA)」リスクを大きく低下

― 約3万頭の遺伝子データと保険請求データを統合解析し、
遺伝的多様性を損なわない適切な選別交配の効果を大規模データにより検証 ―

ミニチュアダックスフンド

麻布大学は、アニコム パフェ株式会社(代表取締役社長 安宅 快、以下 アニコムパフェ)、アニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 堀江 亮、以下 アニコム先進医療研究所)と共同で、ミニチュア・ダックスフンドの進行性網膜萎縮症(以下 PRA)に関連する遺伝子(RPGRIP1)の挿入変異に対する大規模な遺伝子検査が、集団に与える遺伝的な影響を解析しました。その結果、遺伝子検査の普及後、疾患リスクの高い個体の割合が約70%減少し、同時に集団の遺伝的多様性が維持されていることを確認しました。また、保険請求データとの統合解析により、日本国内のコホートにおけるRPGRIP1変異とPRA発症との関連性や発症時期を明らかにし、2030年頃にこの挿入変異で引き起こされるPRAが減少することが推定されました。

本研究成果は、ペットの遺伝性疾患対策において、近年進められている遺伝子検査の普及により、有効な治療法がない遺伝性疾患の減少に有用であることを示唆するものです。本研究はElsevier社が刊行する獣医学や動物科学を扱う国際的な学術誌『Veterinary and Animal Science』にて2025年12月10日にオンライン公開されました。

<本研究の背景>

PRAは、犬の視覚が徐々に失われ、最終的に失明に至る遺伝性の眼疾患です。複数の犬種で様々な遺伝子との関連が疑われていますが、多くの場合、RPGRIP1遺伝子の挿入変異型(以下 リスクアレル)を二つもつホモ接合の場合に重篤化することが知られています。人気犬種の一つであるミニチュア・ダックスフンドにおいては、リスクアレルがこの疾患の原因の一つであることが知られています 。
日本では、2010年代後半からブリーダーやペットショップを通じて、このRPGRIP1を対象とした消費者向け(DTC)遺伝子検査が積極的に導入されました。これにより、リスクが高いホモ接合体の犬を生み出すような繁殖が控えられるようになりました。しかし、このような交配が、RPGRIP1のリスクアレルを減らす一方で、集団内の遺伝的偏りや近親交配(遺伝的多様性の低下)を引き起こす懸念が指摘されていました。
本研究は、この遺伝子検査の普及がミニチュア・ダックスフンドの集団にどのような影響を与えたのか、また、それによってPRAの発症が今後どのようになっていくのかを、アニコムパフェおよびアニコム先進医療研究所が保有する遺伝子検査データと、アニコム損害保険株式会社が保有する全国規模の保険金請求データを用いて、大規模に調査することを目的としました。

<本研究の成果>

1.リスクアレル保有率の劇的な減少
2014年から2022年までに生まれたミニチュア・ダックスフンド30,800頭の遺伝子型データを解析した結果、リスクアレルのホモ接合個体の割合が、全頭での検査が本格的に開始された2019年から翌2020年にかけて、約70%減少(11.1%→3.4%)しました。これは、ブリーダーやペットショップが遺伝子検査の結果に基づき、リスクの高いホモ接合個体の繁殖を避けるという適切なブリーディングが短期間で効果を発揮したことを示しています。

リスクアレル保有率

2.遺伝的多様性の維持
続いて、リスクアレルの頻度の減少が、集団の近交係数の上昇を招いたかどうかを検証するため、ゲノム全体の一塩基多型を網羅的に解析するSNPアレイと呼ばれる技術を用いて解析を行いました。その結果、2019年と2020年のミニチュア・ダックスフンドの集団の間で、近交係数(FROH値)やゲノム全体の構造に大きな変化は見られず、リスクアレルが減少しているにもかかわらず、遺伝的多様性を損なうことなく繁殖が適切に行われていたことが示されました。

3.保険情報によるPRAとの関連性実証
長期にわたる保険契約情報を持つミニチュア・ダックスフンド378頭の遺伝子型と保険請求データを照合し、PRA発症との関連を分析しました。その結果、PRAを発症した犬の57.1%がリスク変異のホモ接合個体であり、発症群と非発症群の間で遺伝子型割合に明確な差があることが確認されました。これは、RPGRIP1のリスクアレルとPRA発症の関連を日本の全国規模の犬集団において初めて明確に報告するものです。また、PRAの初請求年齢は11歳頃にピークを示すことが明らかになりました 。

本研究により、遺伝子検査の導入と変異保持個体の交配によってPRAのリスクアレル保有率が大きく低下したことが確認されました。PRAの発症年齢が主に11歳以降と高い年齢層にあることを踏まえると、リスクアレルが減少した世代の犬が成長する2020年代後半から2030年代にかけて、ミニチュア・ダックスフンド集団における本遺伝子の影響により発症するPRAが実際に低下していくことが期待されます。これは、日本のミニチュア・ダックスフンドの健康寿命とQOL(生活の質)の向上へ貢献すると考えられます。なお、本リリースに記載の将来予測は、現時点で得られているデータおよび解析結果に基づくものであり、今後の研究の進展や集団構造の変化等により、変動する可能性があります。
一方、少ないながらもPRAのリスクが高い、リスクアレルのホモ接合個体の存在が確認されています。また、MAP9と呼ばれる他の遺伝子においても、PRAの発症との関連が知られています。PRAに苦しむ犬を減らすためには、RPGRIP1や他の遺伝子のリスクアレルを完全になくすためのより適切な繁殖が求められます。

今後もアニコムグループでは、様々な研究を通じて獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。

<原論文情報>

掲載誌: Veterinary and Animal Science
論文リンク:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2451943X25001267
doi: 10.1016/j.vas.2025.100555
原題:Genetic testing drives a decline in the occurrence of the canine PRA-related RPGRIP1variant without an increase in inbreeding
著者名:Hisashi Ukawa1, Ryo Horie2, Kai Ataka1, Yuki Matsumoto 1,2,3
1アニコム パフェ株式会社 検査事業部、2アニコム先進医療研究所株式会社 研究開発部、3麻布大学データサイエンスセンター


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