
繁殖ペアは互いに似たような行動を示すのか?マゼランペンギンの活動における個体間同調性の検証
主な研究者:
獣医学部 准教授 山本 誉士
動物福祉の向上は、動物園や水族館における重要な検討事項の一つであり、その評価手法として行動観察が一般的に用いられている。特に群れで暮らす動物種においては、飼育下でも個体間の相互作用が重要とされている。実際、外部刺激に対するストレス緩和効果や繁殖促進が報告されており、個体間関係は飼育動物の福祉向上に寄与すると期待されている。しかし、直接観察によって個体を識別しながら継続的に行動を記録することは、現実的には困難である。ペンギン類は多くの個体が同居し、水中でも活動するため、個体間関係を定量的に把握することは特に難しい。そこで本研究では、マゼランペンギンを対象に動物装着型データロガーを用いて、水上および陸上での活動タイミングを継続的に記録した。まず、個体間の絆が強いと考えられる繁殖ペアに着目し、行動の同調性がみられるかを検証し、どのような行動要素が個体間の親和性の指標となりうるかを明らかにすることを目的とした。
調査は2022年10月11日から2023年10月9日にかけて、すみだ水族館で飼育されているマゼランペンギンを対象に実施した。3ペアを含む23羽のペンギンのフリッパーバンドにデータロガーを装着し、水上または陸上にいるのかを連続的に記録した。そして、全個体の組み合わせについてカッパ係数を算出することで、行動同調性を評価した。その結果、ペア個体間の行動同調性は繁殖期には比較的低かったものの、非繁殖期には顕著に高まっていた。また、ペア個体においてのみ、水上での活動に高い同調性が確認された。このことから、非繁殖期にみられる水上活動タイミングの同調性は、ペンギンにおける個体間親和性の有効な指標となる可能性が示唆された。個体間親和性に関する定量的評価は、ペアの繁殖成功の理解や、血統管理のための個体選定において有益な情報を提供すると期待される。
さらに、飼育スタッフによる日常的な観察への応用を目指し、どの程度の観察回数でデータロガーと同等の結果を得られるかを、擬似的な観察シミュレーションによって推定した。その結果、個体間の親和性を評価するには、おおよそ250回の断続的な観察が必要であることが示された。
本研究では、ペンギンにおいて非繁殖期の水上活動の同調性がペア個体間で高いことを初めて明らかにした。しかし、個体間距離やその他の関連行動についての記録はなく、個体間親和性をより深く理解するためには、空間的な近接や社会的相互作用についても調べる必要がある。また、ペアであることが行動の同調性を高めたのか、それとも行動の同調性がペア形成に繋がったのかは明らかではなく、今後の研究における興味深い課題である。
論文タイトル:
Do pairs exhibit similar behaviours? Evaluating inter-individual synchrony in activities of Magellanic penguins
論文掲載URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168159125001315
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2025.106633