麻布大学

学部・大学院ACADEMIC / GRADUATE

教授 善本 亮

獣医学部 獣医学科

教授 善本 亮
研究室
薬理学研究室
所属と主な研究内容
食・健康・カラダの関係の理解と応用法の研究
担当科目
獣医薬理学総論、獣医薬理学各論、獣医薬理学実習、総合獣医学

プロフィール

肥満、糖尿病やサルコペニアなどの創薬研究を外資・内資の2つの製薬企業で18年、その間には国立循環器病研究センター研究所の室長として酸化LDL受容体の研究に従事し、2022年4月より現職。
他の生物を摂取して生きている動物はまさに『you are what you eat』です。ただし、摂取した栄養素がそのままカラダを構成している訳ではありません。炭水化物、脂質、タンパク質は、正しく交通整理・管理されてこそ命や健康が維持され、偏った食事は遺伝的背景や不適切な生活習慣と結びつくと様々な不具合や病気を引き起こします。大学では、創薬研究の経験を活かし、薬の面白さ・巧みさが伝わる教育を試みるとともに、食事・健康・カラダの関係の理解を進める研究を進めたいと思っています。また、臨床の先生と組むことで、より現場に近い研究にも挑戦したいと思っています。まだ着任したばかりでゼロからのスタートですが、関連する分野に興味のある学生さんを歓迎します。

これまでの研究成果の意訳(学生向け)

食べる行為も実は命がけ:DGATはトリグリセリド(グリセリンに3つの脂肪酸がついている)を合成する最終段階の酵素で、DGAT1、DGAT2という異なる2つの分子が存在します。DGAT1阻害剤は抗肥満薬の候補として盛んに研究されていました。創出したDGAT1阻害剤は、期待通り食事由来のトリグリセリドが小腸から体内に入るのを抑制し、高脂肪食で太らせたマウスの体重を低下させました。ただ、意外なことに、DGAT1阻害の結果、余った脂肪酸が摂食抑制性のホルモンを消化管から分泌し、摂食抑制作用も示すことが分かりました。また、高脂肪食で太らせたマウスのDGAT1、2両方を阻害するとさらに脂肪酸が余剰になり、消化管バリアが破綻され、致死的な下痢になってしまいました。食事を食べている間も、リアルタイムに摂取量が調整されていること、脂質を摂取するのも実は命がけだったことが分かりました。
肥満の元凶トリグリセリドは実はエネルギーを蓄えるだけではない:脂肪酸はエネルギー源として使われたり、細胞膜のリン脂質を構成したり、余剰な分はトリグリセリドとして蓄えられますが、いずれのステップにも脂肪酸のCoA化というステップが必要です。長鎖脂肪酸をCoA化する酵素の1つであるAcsl1 のKOマウスを作成・解析したところ、皮膚のトリグリセリド、しかもリノール酸を含むトリグリセリドが特異的に消失しており、KOマウスは出生後まもなく死んでしまいました。他グループの研究成果と併せて考えると、皮膚のトリグリセリドに含まれるリノール酸が、皮膚バリアに重要なアシルセラミド(セラミドにリノール酸がついている)合成に必須であることが考えられました。トリグリセリドと言えばエネルギーの貯蔵庫の印象がありますが、皮膚ではリノール酸の貯蔵庫にもなっていることが分かった面白い結果でした。トリグリセリドがエネルギー貯蔵庫以外の機能を持つという報告は皮膚以外でも少しされており、この観点の研究は継続したいと思っています。
みんなが言っているからといって正しくなかった:初期の抗ヒスタミン剤 (H1受容体阻害薬)には肥満や認知機能低下の副作用があったことから、脳のH1受容体を活性化すれば肥満や認知症の治療に使えるだろう、という考えがありました。1990年後半に脳でヒスタミン放出を抑制するH3受容体が見つかり、世界中の製薬企業でH3受容体阻害薬の開発が始まりました。従来から存在したH3受容体阻害薬は確かにマウスの摂食行動を抑制したのですが、投与経路や動物種を変えたり、自分たちで作り出した選択性の高い阻害剤を検討した結果、H3受容体阻害薬は摂食を増やすという結論に至りました。念のため市販されているH3受容体作動薬を投与すると摂食を強く抑制し、反復投与すると抗肥満作用を示しました。新卒入社後まもなく、関連の研究領域や動物実験も知らず、創薬のプロセス、薬物動態もド素人だったためだいぶ時間がかかりましたが、食事・健康・カラダの研究を心底面白く感じたのがこの時です。
業績:善本 亮 (Ryo Yoshimoto) - マイポータル - researchmap
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